小林素顔 on Nostr: ...
Misskey.ioのサーバーの街は相変わらず騒がしく、ローカルタイムラインの表通りにはハイライトに載ったイラストが添付されたノートのホログラムや、ミス廃が掲出した広告を貼り付けたバナーリンクのアドトラックが走り、通りの両側のビル群に建てられた大型ビジョンには村上さんやしゅいろさんのファンアートが映し出されていた。
.ioに居ついたミスキストは、.ioの外からリノートされてくるリモートサーバーのノートにも分け隔てなくリアクションのカスタム絵文字を歩道から投げ込む。表通りを流れていくノートには.ioのカスタム絵文字が弾けて飛んで煌びやかに輝く。こうした住人たちは今も増え続けている、黒いアイコンのSNSの仕様変更が繰り返されるたびに。
しかし夜だった、エメラルドの月が暗い碧色の空に浮かぶその下で、私たちは下ネタをノートしたり引用ノートでボケを重ね合ったりしながらも、少しの言葉の行き違いで背筋に不安が走って気持ちが冷めてしまうことがある。気を付けていても防ぎきれない、リアクションが少し踏み越えてしまう瞬間と言うものが、Misskey.ioにもある。
Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りに面したカフェテラスは今日も客たちで賑やかだ。テラス席のテーブルは店舗の壁に設えられた照明で明るく、タブレット端末でイラストを描くひと、ノートPCでMFMアートを構築し続けるひと、スマホをテーブルに並べて相互フォローたちと談笑するひと、みなそれぞれに夜風に吹かれていた。
独りぼんやりしている人ももちろん多い。彼らのテーブルのココアやカフェオレは急に秋の気配に包まれた空気にすぐさま冷めてしまう。もちろんそれを指摘するのは野暮と言うものだ、彼らには目の前のマグカップよりも手前に立ちはだかる考え事で手一杯なのだから。
「やあ、お久しぶり」
ブラックコーヒーをすっかり冷ましながら腕組みする男性に、私は声をかける。三つ揃えのスーツに顎ひげをたっぷりと蓄えたその中年男性は、私のほうに振り向くと、すこし吃驚気味に微笑んで見せる。
「おう、元気か」
そう言って髭面の男は手を差し出してきたので、私は握手を返す。彼は自らを「リアクションシューター」と名乗ってMisskey.ioの表通りを行き交う人々を励ますリアクションを「撃ち込む」ことを生きがいとしていた。テーブルにはキャンディカラーのリボルバーピストルが置いてあり、そばにはカスタム絵文字の弾丸がころがっていた。このリボルバーでリアクションを発射するのだ。
私はリアクションシューターの向かいに座って、フロアスタッフにカフェオレを頼むと、リアクションシューターのほうへぐっと身を乗り出して、後ろに目配せしながら囁いた。
「あの子、泣いてるね」
私の後ろ、リアクションシューターの視線の先に、十代後半くらいの女の子がテーブルに置いたスマホを目の前にうつむいていた。しかし、私の言葉にリアクションシューターは首を振る。
「今まさに泣いているひとに撃ち込むリアクションは、ないんだな」
「どうして」
私が訊くと、リアクションシューターはクリーニングしていたリボルバーにカスタム絵文字の弾丸をひとつずつ込め始める。
「だってノートしてないじゃないか、あの子。リアクション撃ち込みようがない」
リアクションシューターはシリンダーの六つの穴に弾丸を込め終わると、テーブルの上にリボルバーを置いて、やさしく手で覆った。
「彼女が助けを求めるようにこのカフェテラスの中でノートする、それもローカルタイムラインに流さないように、ホームに。そのときこそ、このカフェテラスでこのリボルバーを撃つ時だ」
すると、カカポ、という音が私の背後で鳴った。あらゆる人々のホームタイムラインとも言うべきこのカフェテラスに、女性の「ホーム限定ノート」が、まるで大きな風船のように浮かび上がる。
<やっぱりどうしても苦手なリアクションある
価値観の違いであっても許せない>
彼女の手元からホログラムで浮かんだノートに、キャンディカラーのリボルバーの銃口が向かう。リアクションシューターが引き金を引くと、パカン! という乾いた音と共に、女性のノートに≪泣いているにゃんぷっぷーをなでなでする≫リアクションが撃ち込まれる。その速さに、ノートを浮かべた女性は明らかに驚いて、私たちのテーブルのほうに振り向いた。
リアクションシューターはにこやかに手を振って見せる。すると女性は目の前のスマホを手に取ってスワイプを繰り返した後、改めてこちらに頭を下げて見せた。
「あれは、なんだろう」
彼女の不思議な挙動に私が首を傾げていると、リアクションシューターは冷めきったコーヒーをひと口すすった。
「フォロワーかどうか、確かめたんだろ。大丈夫、ちゃんとフォローしてる」
リアクションシューターは満足げに胸を反らして見せる。女性のほうも首を上げて、やはり冷めきっているであろうカップの飲み物にようやく口を付けたのだった。
「リアクションも、礼儀と信頼関係だな」
テーブルに向き直りながら私が言うと、リアクションシューターは指をパチンと鳴らして私のほうを指さした。
「それが分かってても、失敗することがあるのが、リアクションであり、コミュニケーションなんだな」
Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りでは今夜もカスタム絵文字が飛び交い、ミス廃たちはリアクションを交わし合いながら互いの心の傷を庇いあっている。ただ、その優しさの表現の仕方を間違えると、心の傷を広げてしまうこともある。そのことを、私たちは改めて心に留めないといけない。
.ioのサーバーの街の夜はいっそう更けて、エメラルドの月がミス廃たちの心の陰にグリーンの光を注いで、心の形を照らし出そうとしているかのようだった。
#カフェテラスMisskeyio
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